「ありのまま」はなぜ難しい?
- nirin-so

- 10月19日
- 読了時間: 5分
「ありのままを受け入れよう」 よく聞く言葉だと思います。 ですが、「ありのままでいる」ことが難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。
「ありのまま」でいることが難しいのは、人間の持つ「自己」と「社会」との複雑な相互作用、そして「自己肯定感」や「承認欲求」といった心理的要因が深く関わっているからです。
今回は、その難しさの主要な要因をお話ししようと思います。
1. 「ありのまま」には対人関係上のリスクが伴う
人間は社会的な動物であり、他者との関係性の中で生きています。この関係性における「受け入れられないことへの恐れ」が、「ありのまま」でいることを最も困難にしている要因です。
1-1. 条件付きの承認
人間性心理学の提唱者であるカール・ロジャーズは、人がありのままの自分を受け入れられない主な理由として、「条件付きの承認」の概念を提示しました。
定義: 幼少期に、親や重要な他者から「良い子でいるときだけ」「成績が良いときだけ」など、特定の条件を満たしたときだけ愛や評価、承認を与えられた経験が、この「条件付きの承認」として心に刷り込まれます。
影響: この刷り込みによって、「ありのままの自分(弱さや欠点を持つ自分)」では愛されない、受け入れてもらえないという「不適格感」が形成されます。結果として、他者の期待に応える「理想の自分」を演じ、本当の自分を隠すようになります。
1-2. 弱みをさらけ出すことへの恐れ(対人関係の心理)
「ありのまま」の自分を見せることは、「弱みをさらけ出す」ことと等しい場合があります。
自己開示は相互信頼を深めるために重要ですが、同時に「拒絶されるかもしれない」「利用されるかもしれない」という対人リスクを伴います。
このリスクを回避するために、多くの人は「防衛機制」として、自分を過度に強く見せたり、明るく振る舞ったりといったペルソナ(仮面)を身につけてしまいます。
2. 自己肯定感の低さ(内なる自己の未受容)
「ありのまま」の自分を外に出す以前に、自分自身が「ありのままの自分」を受け入れられていないという内的な問題があります。
2-1. 自己受容の難しさ
自己受容とは、自分のポジティブな側面(長所、成功)だけでなく、ネガティブな側面(短所、失敗、ネガティブな感情)も含めて、「それが自分である」と認識し、価値を認めることです。
完璧主義: 完璧主義の傾向が強い人は、物事を「減点方式」で見がちで、少しの失敗や欠点も見過ごせません。常に自己を批判し、「今の自分ではダメだ」と感じるため、「ありのまま」を受け入れることができません。
否定的自己評価: 過去のトラウマや失敗経験から、「自分には価値がない」「どうせ自分はできない」といった否定的な自己スキーマ(認知の枠組み)が形成されていると、「ありのままの自分は受け入れるに値しない」と感じ、それを他者から見られないように隠そうとします。
成長欲求:人は成長したい生き物です。「ありのまま」を認めることは停滞を意味すると捉え、受け入れがたい感情が生まれます。
2-2. 認知の歪み(アドラー心理学の観点)
アルフレッド・アドラーは、人が劣等感を克服し、他者と協調して生きる(共同体感覚)ことの重要性を説きました。
「ありのまま」を受け入れられない人は、しばしば「どうあるべきか」という理想と「現実の自分」とのギャップに苦しみます。
このギャップが強すぎると、現実の自分を否定したり、あるいは「自分は正しい」と証明するために他者を批判したりする「認知の歪み」が生じます。アドラーは、まず「自己受容」(ありのままの自分を受け入れる)を通じて、理想と現実の自分を勇気づけることが重要だと説きます。
3. 「ありのまま」そのものの定義の曖昧さ
そもそも「ありのまま」という言葉が指すものが、心理的に固定された「何か」ではないことも、難しさの一因です。
3-1. 自己は常に変化するプロセス
心理学において「自己」は固定された実体ではなく、経験や環境との相互作用を通じて常に変化し続けるプロセスとして捉えられます。
「ありのままの自分」とは、「昨日と同じ自分」でも「一生変わらない自分」でもありません。それは「その瞬間に感じている感情、思考、そしてありのままの行動の動機」といった、流動的なものです。
人は「ありのまま」を探そうとして、過去の経験や、誰かから植え付けられた「固定された自己像」にしがみついてしまい、本当の「ありのまま(今ここにある自分)」を見失いがちになります。
3-2. マインドフルネスの観点
近年注目されるマインドフルネスの考え方では、「ありのまま」を「今この瞬間の体験(思考、感情、身体感覚)に、評価や判断を加えることなく、意図的に注意を向けること」と捉えます。
私たちは通常、過去の後悔や未来の不安、あるいは自己批判といった「思考の評価」**に囚われています。この「思考の評価」こそが、今感じている感情や感覚という「ありのまま」を覆い隠してしまいます。
「ありのまま」を難しいと感じるのは、「評価されていない生の経験」をそのまま受け止め、それに留まる訓練が不足しているからとも言えます。
まとめ
「ありのまま」が難しいのは、「他者から拒絶されるリスク」と、「自分自身が自分を価値あるものとして受け入れられない」という外的・内的な二重の恐れによるものです。
心理的な成長とは、この二重の恐れに気づき、他者からの「条件付きの承認」を手放し、自ら「無条件の自己受容」へとシフトしていくプロセスだと言えるでしょう。
ありのままを難しいと感じるのは、人として自然な事なんだと受け入れたうえで、そのままの自分を感じる練習を少しずつ始めてみませんか?
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