人を信じられないのは自分を信じられないから?~自己信頼と他者信頼の関連性
- nirin-so

- 11月12日
- 読了時間: 5分
「人を信じられないのは自分を信じられないから」という考え方は、自己信頼と他者信頼の密接な関連性を指摘するものです。
この現象は、他者との関係性を築く上での自己基盤の重要性を示しています。
今回は心理学、特にアドラー心理学や愛着理論の観点からお話ししていきます。
1. 自己信頼と他者信頼の心理学的構造
自己信頼の定義と役割
心理学において自己信頼とは、「ありのままの自分」や「自分の持つ思考・感情・行動」を肯定し、自分の判断や能力、存在そのものに対して価値を認め、頼りにできる感覚を指します。
判断の信頼: 自分の感じ方や考えが現実と大きくかけ離れていないと信じること。
能力の信頼: 困難に直面しても、何らかの形で乗り越えられる力があると信じること。
存在の信頼: 失敗や欠点があっても、自分には価値があると信じること(自己受容・自己肯定感)。
この自己信頼が低く、自分を信じられない状態(自己不信)にあると、「自分の判断は間違っているかもしれない」「自分は無力だ」「自分には価値がない」といった根源的な不安を抱えることになります。
他者信頼の定義
他者信頼とは、特定の他者や一般の人々に対して、「自分を傷つけたり、裏切ったり、不当に利用したりしないだろう」と信じ、安心して関わることができる状態を指します。
2. 自己不信が他者不信につながるメカニズム
自分を信じられない人が他人を信じられないのは、単に「他人が怖い」というだけでなく、自己と他者の境界線、そして自己の認識が関係性の認知に影響を及ぼすからです。
🚨 投影(Projection)
自己不信を抱える人は、自分自身の欠点や不安、裏切りの可能性を無意識のうちに他者に投影する傾向があります。
「私は自分自身を疑っている(私はダメな人間かもしれない)」という内なる声が、「他人も私を裏切るに違いない」「他人は私の欠点を見抜いて裁くだろう」という外的な不信感にすり替わります。
人を信じることは、「自分の信じた判断(あの人は信頼できる)を信じる」ことでもありますが、自己不信者は自分の判断能力自体を疑っているため、「もし裏切られたらどうするのか?」という不安が強くなり、信じる決断ができません。
🛡️ 自己防衛としての疑い
自己不信者は、傷つきやすさが非常に高い状態にあります。過去の失敗やトラウマ、低い自己肯定感によって、新たな精神的な痛みから自分を守ることに必死だからです。
人を疑うことは、裏切られたり、拒絶されたりするリスクを最小限に抑えるための防衛機制として機能します。
深く信じ、深く関わって、もし裏切られた場合、自己不信者は「やはり自分には愛される価値がない」「自分の見立ては間違っていた」と自己の価値を否定するダメージを受けます。この深いダメージを避けるため、「最初から信じない」「深い関係を築かない」という選択を取りがちになります。
相手が好意を示しても、「きっとお世辞だ」「何か裏があるに違いない」とネガティブに解釈することで、裏切られた時のショックを予防しようとします。
🌀 「信じられない自分」を「信じる」逆説
さらに逆説的なことに、自己不信者は「自分はダメな人間だ」「自分は信じられない」という負の自己イメージだけは、なぜか頑なに信じている場合があります。
この「自分はダメだ」という歪められた思い込みこそが、彼らが外界を解釈するフィルターとなり、ポジティブな他者の行動も「私を馬鹿にしているのでは」「いつか去っていく」という不信感へと変換してしまうのです。
3. アドラー心理学による「共同体感覚」の視点
精神科医アルフレッド・アドラーは、人間の幸福の鍵を握る「共同体感覚」という概念を提唱しました。これは、「自分は共同体の一員であり、そこに居場所がある」という感覚です。
共同体感覚を身につけるためには、以下の3つの要素がワンセットで不可欠だとされます。
自己受容: ありのままの自分を受け入れること。
他者信頼: 他者を無条件に信じること。
他者貢献: 他者に貢献すること。
アドラー心理学では、自己受容(自分に価値があると感じること)が土台となります。
「自分は価値がない」「自分は無能だ」という自己不信がある状態(自己受容が低い)では、他者との関係に入るのが怖くなります。なぜなら、関係に入れば自分の欠点が露呈し、拒絶されることを恐れるからです。
自分に価値があると思えないと、他者に貢献しようという意欲も生まれにくくなります。
アドラーは、無条件の他者信頼を説きます。裏切るかどうかは相手の課題であり、自分にはどうにもできないこと(課題の分離)。自分が「信じる」と決意することで、初めて深い関係が生まれます。
自己不信というフィルター越しに見ると、他者は「自分を拒絶したり、裏切ったりするかもしれない敵」のように見えてしまいます。敵とみなす相手を信じることは不可能です。
自己信頼(自己受容)が高まり、「自分には価値がある」と確信できると、初めて「他者は敵ではなく、自分を助けてくれるかもしれない仲間だ」と見なすことができ、無条件の他者信頼へと踏み出すことができるのです。
4. 解決への方向性:自己信頼の回復
人を信じられるようになるためには、まず自己信頼を回復し、自己肯定感を高めることが出発点となります。
自己受容の練習: 完璧ではない自分、失敗した自分を否定せず、「それが今の自分だ」と受け入れることから始めます。自分の感情や欲求を否定せず、ありのままを認めることが、自分の判断を信じる第一歩です。
成功体験の積み重ね: 小さな目標を設定し、達成する経験を積むことで、「自分にはできる」という自己効力感を高めます。これは、自分の能力を信じる感覚につながります。
内省と認知の修正: 「どうせ私はダメだ」「あの人はきっと私を嫌っている」といったネガティブな自動思考を客観的に見つめ、「本当にそうだろうか?」と問いかけ、より現実的で建設的な考え方に変えていきます(認知行動療法)。
自己信頼が育まれ、自分が安定した基盤の上に立てるようになると、他者を疑うための過剰なエネルギーが不要になり、他者の好意や親切を素直に受け入れられるようになります。その結果、「信じよう」という建設的な決意ができ、真の相互信頼を築けるようになるのです。
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