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短気は損気?「待てない」本当の理由。せっかく蒔いた種をほじくってしまうのはなぜ?

「短気は損気」ということわざは、誰もが一度は耳にしたことがあるでしょう。落ち着いて待てばうまくいくことも、焦って行動して失敗してしまう。頭ではわかっていても、私たちはなぜ「待てない」のでしょうか。

まるで、大切に蒔いた種がちゃんと育っているか気になって、芽が出る前に何度も土をほじくり返してしまうように。その行動は、期待や希望からというよりも、不安や焦りに駆られた結果であることが多いのではないでしょうか。

今回は、この「待てない」という感情の裏にある心理学的なメカニズムを紐解き、私たちがなぜ「種をほじくってしまう」のか、その本当の理由を探っていきます。


「待てない」を生み出す3つの心理メカニズム

私たちが「待てない」と感じる背景には、主に3つの心理的なメカニズムが働いていると考えられています。


1. 時間割引 (Temporal Discounting) ―未来の大きなリンゴより、今の小さなリンゴ―

心理学や行動経済学には「時間割引」という概念があります。これは、「将来得られる大きな報酬」よりも、「今すぐ手に入る小さな報酬」の方を価値が高いと判断してしまう心の傾向です。

例えば、「1年後に1万円もらえる」か「今すぐ5千円もらえる」か、という選択を迫られたとします。合理的に考えれば前者の方が得ですが、多くの人が後者を選んでしまう傾向があります。これは、未来の価値が、時間という距離によって「割り引かれて」見えてしまうためです。

私たちの脳内では、目先の欲求(報酬系)と、長期的な視点で物事を考える理性(前頭前野)がせめぎ合っています。不安やストレスを感じている時ほど、理性の働きが弱まり、目先の快楽や安心を求める報酬系の声が大きくなります。

「待つ」という行為は、将来の大きな成功という「1年後の1万円」を選ぶ行為です。しかし、結果が出るまでの不確実性や不安が、私たちに「今すぐ安心したい」という「今の5千円」を選ばせてしまうのです。種をほじくる行為は、まさにこの「今すぐ結果を知りたい」という短期的な欲求に負けてしまっている状態と言えるでしょう。


2. 不確実性への不耐性 (Intolerance of Uncertainty) ―白黒つけたい欲求―

「結果がどうなるかわからない」という宙ぶらりんな状態は、多くの人にとって大きなストレスです。この「不確実な状況に耐えられない性質」を、心理学では「不確実性への不耐性」と呼びます。

この性質が強い人ほど、「失敗するかもしれない」という可能性に対して過剰な不安や心配を抱きやすくなります。そして、その不安から逃れるために、一刻も早く白黒ハッキリさせたいという強い衝動に駆られます。

種を蒔いた後、「本当に芽は出るのだろうか?」「もしかしたら、もうダメになっているかもしれない」という不確実な状況は、まさにこの不安を掻き立てます。土をほじくってしまうのは、芽が出ているか(白)出ていないか(黒)をハッキリさせて、この宙ぶらりんな状態から一刻も早く抜け出したいという心の叫びなのです。たとえ、その結果が「まだ芽は出ていない」というネガティブなものであったとしても、「わからない」という状態よりはマシだと感じてしまうのです。


3. コントロール欲求 ―自分の手で何とかしたい―

私たちは、自分の人生や周囲の環境を、できるだけ自分のコントロール下に置きたいと願う生き物です。物事が自分の思い通りに進んでいると感じられると安心し、逆にコントロールできない状況に置かれると無力感や不安を感じます。

植物の成長は、気温や水分、日光といった自然の力に大きく依存しており、人間の力だけでコントロールできるものではありません。「待つ」ということは、この自分ではコントロールできない要素を受け入れ、自然のプロセスに身を委ねることを意味します。

しかし、不安が強い時ほど、「何か行動を起こさなければならない」「自分の手で成長を早められるはずだ」という焦りが生まれます。種をほじくる行為は、「ただ待つ」という無力な状態から脱し、自分が状況に関与している、コントロールしているという感覚を得るための、ある種の防衛的な行動と解釈することもできます。


「待つ力」を育み、豊かな実りを手に入れるために

では、どうすれば私たちはこの「待てない」気持ちと上手に付き合い、「待つ力」を育てることができるのでしょうか。

  1. メタ認知を働かせるまずは、「あ、今自分は『時間割引』の罠にハマっているな」「不確実な状況が不安で、早く白黒つけたいんだな」と、自分自身の心の状態を客観的に認識する「メタ認知」が重要です。自分の感情を冷静に観察するだけで、衝動的な行動にブレーキをかけやすくなります。

  2. マインドフルネスを実践する未来への不安や過去の後悔に心が囚われている時、私たちは「待てない」状態に陥りやすくなります。瞑想や呼吸法などを通して、「今、ここ」の感覚に意識を集中させるマインドフルネスは、心を落ち着かせ、衝動性をコントロールするのに役立ちます。

  3. 「待つこと」の価値を再認識する美味しいワインや味噌が熟成に時間を要するように、価値あるものの多くは「待つ時間」を経てこそ生まれます。焦って種をほじくるのではなく、「この待っている時間こそが、豊かな実りのための大切な栄養なのだ」と、その価値を意識的に再認識してみましょう。プロセスそのものを楽しむ視点を持つことが、心を穏やかに保つ秘訣です。


まとめ

「短気は損気」とは、単なる精神論ではありません。私たちの脳の仕組みや、「不確実性を避けたい」「物事をコントロールしたい」という根源的な心理欲求が複雑に絡み合った結果生じる現象です。 焦りが生じたら、深呼吸して「あぁ、今自分は安心したくて焦ってるんだなぁ」と俯瞰してみて下さい。


 
 
 

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