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自分を縛っている思い込みから出るー脱同一化とは?

想像してみてください。あなたは、まるで映画の登場人物のように、自身の思考や感情、そして目の前で展開する出来事を、逐一実況している。これは単なる自己分析ではなく、私たちが同一化という名の制限から解き放たれ、脱同一化という真の自由を通常モードにするための、強力な心理学的アプローチなのです。


同一化と脱同一化:心理学的な理解

私たちの日常生活は、多かれ少なかれ同一化に支配されています。同一化とは、私たちが特定の思考、感情、役割、あるいは外部の状況に深く結びつき、それらを「自分自身」であると信じ込んでしまう状態を指します。


同一化の例

  • 思考との同一化: 「私はダメな人間だ」という思考が浮かんだとき、その思考をあたかも真実であるかのように受け入れ、自分自身が本当にダメな人間だと感じてしまう状態です。これは認知の融合(cognitive fusion)とも呼ばれ、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)で中心的に扱われる概念です。私たちは思考を事実として捉え、それに支配されて行動してしまいます。

  • 感情との同一化: 怒りや悲しみといった感情が湧き上がった際、その感情に完全に飲み込まれ、「私は怒っている」「私は悲しい」と感情そのものになってしまう状態です。これにより、感情の波に流され、衝動的な行動をとってしまうことがあります。

  • 役割との同一化: 「私は親だからこうあるべきだ」「私は会社の部長だからこう振る舞うべきだ」といった役割意識が強くなり、その役割に自分自身を閉じ込めてしまう状態です。これにより、本来の自分らしさや柔軟な対応が失われることがあります。

  • 状況との同一化: 困難な状況に直面した際、その状況が永遠に続くかのように感じ、そこから抜け出すことができないと絶望してしまう状態です。あたかも自分がその状況そのものであるかのように感じてしまいます。


これらの同一化は、私たちの行動や感情、さらには自己認識に大きな影響を与え、しばしば苦しみや制限を生み出します。私たちは、自分自身が作り出した、あるいは社会や他者から与えられた「思い込み」や「制限」の中に閉じ込められてしまうのです。


脱同一化:気づきの状態

一方で、脱同一化とは、私たちが思考や感情、外部の状況から一歩引いて、それらを客観的に観察できる状態を指します。これは、「自分は思考や感情そのものではなく、それらを経験している存在である」という気づき(awareness)の状態です。

心理学的には、これはメタ認知(metacognition)能力の向上と密接に関連しています。メタ認知とは、「思考について考えること」や「感情について感じること」を指し、自身の内面プロセスを客観的に認識する能力です。脱同一化が達成されると、私たちは以下のような変化を経験します。


  • 思考の客観視: 「私はダメな人間だ」という思考が浮かんだとしても、「『私はダメな人間だ』という思考が今、頭に浮かんでいるな」と観察できるようになります。これにより、思考の力に囚われることなく、より建設的な行動を選択できるようになります。これはACTにおける脱フュージョン(defusion)のプロセスそのものです。

  • 感情の受容と距離: 怒りや悲しみといった感情が湧いた際に、「今、自分の中に怒りを感じているな」「悲しみがここにあるな」と、感情そのものになるのではなく、感情を「経験している」と認識できます。これにより、感情に圧倒されることなく、感情を受け入れつつも、冷静に対応する選択肢が生まれます。

  • 自己の拡大: 特定の役割に縛られることなく、多角的で流動的な自己認識を持つことができます。これにより、状況に応じて柔軟に振る舞うことが可能になります。

  • 状況からの解放: 困難な状況にいても、その状況が一時的なものであり、自分自身がその状況そのものではないという認識を持つことができます。これにより、問題解決に向けた新たな視点や行動が生まれます。


脱同一化は、私たちが本来持っている自由と選択の力を取り戻すための鍵となります。


脱同一化を通常モードにする「実況中継」の心理学的効能

「自分の内側(思考や感情)と外側(起きていること、出来事)を同時に実況する」という行為は、まさにこの脱同一化を促し、それを私たちの「通常モード」にするための強力な「裏ワザ」です。


1. メタ認知の強化

内側と外側の実況は、私たちのメタ認知能力を劇的に高めます。

  • 内側の実況: 「今、不安を感じている」「〇〇という思考が頭に浮かんだ」「心臓が少しドキドキしている」といった内的な経験を言葉にすることで、私たちは自身の思考や感情、身体感覚を客観的に観察する機会を得ます。これは、あたかも自分の中に「観察者」を育てるようなものです。心理学者のアーロン・ベックが提唱した認知療法では、自動思考を特定し、その妥当性を検証するプロセスが重要視されますが、実況中継はその第一歩となる自動思考の「特定」を自然に行うことになります。

  • 外側の実況: 「電車がホームに入ってきた」「目の前の人が立ち上がった」「雨が降り始めた」といった外部で起きていることを言葉にすることで、私たちは状況を客観的に認識し、そこに感情や思考が過度に結びつくのを防ぎます。

この二つの実況を同時に行うことで、私たちは内と外の情報を統合しつつも、それらと自分との間に適切な距離を保つ訓練を重ねることができます。


2. 認知的脱フュージョン(Cognitive Defusion)の促進

ACTの中心概念である認知的脱フュージョンは、思考と自分自身とを切り離すプロセスです。実況中継は、この脱フュージョンを自然に促進します。

例えば、「私はダメな人間だ」という思考が浮かんだ時、それを「『私はダメな人間だ』という思考が、今、頭に浮かんだ」と実況する行為は、思考を「ただの言葉の羅列」として認識し、その思考に過度な影響を受けることを防ぎます。思考を「事実」としてではなく、「現象」として捉えることで、思考の持つ力を弱めることができます。


3. 自己意識の拡大と「気づいている自己」の強化

実況中継は、私たちが「思考している私」「感じている私」の背後に存在する、「それら全てに気づいている私」という真の自己を強化します。これは、心理学でいうところの「観察する自己(observing self)」や「純粋な気づき(pure awareness)」といった概念に近いです。

普段私たちは、無意識のうちに思考や感情、状況に没頭してしまいますが、実況することで、その没頭から抜け出し、「ああ、今私は〇〇を経験しているんだな」と、一歩引いた視点を持つことができるようになります。この「気づいている自己」の強化は、ストレス対処能力の向上や精神的なレジリエンス(回復力)の向上にも繋がります。


4. 感情調整(Emotion Regulation)能力の向上

感情を実況することは、その感情に適切に対処するための第一歩となります。感情に気づき、それを言葉にすることで、感情のピークを和らげ、衝動的な反応を抑えることができます。これは、感情のラベリング(affect labeling)としても知られ、感情を言葉で表現することで、脳の扁桃体の活動が抑制されるという神経科学的な研究もあります。


まとめ:日常を「気づき」の舞台へ

自分の内側と外側を同時に実況するという「裏ワザ」は、単なる奇抜な方法ではありません。それは、心理学の様々な知見、特にメタ認知、認知行動療法、そしてアクセプタンス&コミットメント・セラピーの核心部分に触れる、非常に効果的な実践なのです。

この習慣を続けることで、あなたは次第に、思考や感情、外部の出来事に同一化することなく、それらをただ「経験している」自分に気づくことができるでしょう。日々の生活が、まるで壮大な舞台のようになり、あなたはそこで演じられるドラマの登場人物でありながら、同時にそのドラマを冷静に観察する「観客」としての視点も持ち合わせるようになります。

脱同一化が「通常モード」になった時、私たちは思い込みや制限から解放され、より自由に、そして意識的に人生を創造していくことができるはずです。さあ、今日からあなたも、あなた自身の人生を実況し始めてみませんか?


 
 
 

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