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記憶は実は「思い込み」?心理学でわかる記憶の不思議

「過去のことは、もう決まった事実でしょ?」

そう思っていませんか?

実は、心理学的に見ると、私たちの記憶は、写真やビデオのように「撮りっぱなしの記録」とはちょっと違います。むしろ、ただの「データ」であり、あなたの頭の中で作り変えられたり、都合よく解釈されたりしていることが多いのです。だから、「過去の記憶は絶対正しい!」と信念のように固く信じ込む必要はないのです。

ここでは、どうしてそう言えるのかを、心理学の視点から見ていきましょう。


記憶は「完璧な記録」じゃない!

まず、記憶とはどんなものかを考えてみましょう。

私たちは毎日、色々なものを見たり、聞いたり、体験したりしていますよね。これらの情報が脳に入り、それが「記憶」として保存されます。大きく分けると、次のような記憶があります。

  • 「あの時、あそこで、こんなことがあった!」という具体的な出来事の記憶(例:昨日の晩ごはん、子どもの頃の運動会)

  • 「これはこうだ!」という知識やルールの記憶(例:犬は動物、1+1=2)

  • 「体が勝手に動く」というやり方の記憶(例:自転車の乗り方、泳ぎ方)


これらはすべて「記憶」なのですが、実はどれも「完璧な記録」とは言えません。むしろ、とてもあいまいで、変わりやすいものなのです。


記憶は「組み立てられる」もの:「あの時のこと、覚えてる?」と聞かれて思い出す時、私たちは本当にその時の状況をそのまま再生しているわけではありません。実は、脳は今持っている知識や気持ち、期待などを使って、過去の出来事を「組み立て直して」いるのです。

例えば、ある実験では、実際には見ていないはずのものが、誘導するような質問をされると「見た」と答えてしまう人がたくさんいました。これは、脳が質問に合わせて記憶を「作って」しまった例です。つまり、私たちは過去を思い出しているのではなく、過去を「今」の自分の都合に合わせて「創造している」とも言えます。


記憶は「忘れられる」もの: 嫌な記憶は忘れたいのに…と思ってもなかなか忘れられないこともありますが、実は人の記憶は時間が経つとどんどん薄れていきます。特に、あまり重要でなかったり、何度も思い出さなかったりする記憶は、あっという間に忘れてしまいます。脳は、すべての情報を残しておくのではなく、必要なものを選んで残そうとしているのです。ただし脳に善悪の区別はないので、インパクトの強いものや長年繰り返されたものは必要なものとして記憶に残ります。


記憶は「気持ち」に左右される: 悲しい気分の時は悲しい思い出ばかりが浮かんできたり、楽しい気分の時は楽しかったことばかり思い出したりしませんか?

記憶は、その時の気持ちや感情に大きく影響されます。すごくショックな出来事は鮮明に覚えている一方で、記憶の一部がぼやけてしまったりすることもあります。


これらのことから、私たちの記憶は「客観的な事実の記録」というよりも、脳が過去の情報をもとに作り上げた、いわば「解釈されたデータ」だと言えるのです。


なぜ、その「データ」を「絶対の事実」だと信じてしまうのか?

記憶がこんなにあいまいなものなのに、私たちはどうしてそれを「絶対の事実」として信じ込み、信念のように固く「こうだったはずだ!」と思ってしまうことがあるのでしょうか?それには、人間の心の仕組みが関係しています。

 

「思い込みの枠組み」と記憶: 私たちの脳は、情報を効率よく処理するために、「これはこういうものだ」という「思い込みの枠組み(スキーマ)」を作り上げます。

例えば、「パーティーは楽しいものだ」という枠組みがあれば、パーティーで少し嫌なことがあっても「まあ、全体的には楽しかった」と記憶を修正してしまうことがあります。一度この枠組みができると、新しい情報が入ってきても、その枠組みに合わせて解釈されてしまうので、なかなか「自分の思い込みは間違っているかも」とは考えにくくなります。


「自分の考えは正しい!」と思いたがる心: 人間には、自分がすでに持っている考えや信じていることを「やっぱり正しいんだ!」と確認したくなる気持ちがあります。これを「確証バイアス」と言います。過去の記憶を思い出す時も、自分の今の考えに合う記憶ばかりを選んで思い出してしまい、そうでない記憶はあまり重視しない傾向があるんです。このせいで、「自分の記憶は客観的な事実だ」と強く感じてしまい、それがさらに「信念」として固まってしまうことがあります。


「すぐに思い出せること」を大事にしすぎる: 例えば、一度失敗したことが強烈に記憶に残っていると、「自分はいつも失敗ばかりだ」と思い込みがちです。これは、簡単に思い出せる記憶を「よく起こること」「重要なこと」だと判断してしまう心の働き(利用可能性ヒューリスティック)によるものです。この「たった一度の失敗」の記憶が、「自分はダメな人間だ」という強い「信念」に繋がり、新しいことに挑戦するのをためらってしまう原因になることもあります。


このような心の働きによって、ひとつひとつの「データ」に過ぎないはずの記憶が、やがて私たちの強固な「信念」として心の中に根付いてしまうことがあるのです。


記憶を「データ」として上手に使うには?

記憶を「絶対の事実」として盲目的に信じてしまうと、困ったことが起こる場合があります。例えば、過去の失敗ばかりを思い出して「自分はダメだ」という信念に囚われてしまうと、新しいことに挑戦する気持ちがなくなってしまいますよね。

では、記憶を「ただのデータ」として、もっと上手に、そしてプラスになるように使うにはどうすればいいのでしょうか?


  1. 「本当にそうかな?」と立ち止まって考える:何かを思い出したら、すぐに「ああ、あの時はこうだった!」と決めつけずに、「本当にそうだったかな?」「別の見方もできるかな?」と一度立ち止まって考えてみましょう。まるで探偵になったつもりで、自分の記憶を「客観的な情報」として眺める練習をしてみてください。他の人の話を聞いてみるのも、新しい視点が見つかって良いです。

  2. その時の「状況」を思い出す:記憶は、その時のあなたの気持ちや周りの状況(文脈)の中で作られます。過去の出来事を思い出す時、「その時、自分はどんな気持ちだったかな?」「周りはどんな状況だったかな?」「他にどんな情報があったかな?」と考えてみましょう。例えば、過去の失敗を思い出す時、その時の自分の知識や経験、周りの状況を考えれば、「あの時は仕方がなかったな」「あの経験があったから今があるんだ」と、前向きに捉え直せるかもしれません。

  3. 新しい情報で記憶を「更新」する:記憶は常に変わる可能性があります。新しい経験をしたり、新しい知識を得たりすることで、過去の記憶に対する見方を変えることができます。例えば、「過去の自分はダメだった」という記憶があっても、今の自分が努力して成長したことを実感すれば、その古い記憶を「昔はそうだったけど、今は違う」と上書き(更新)できます。

  4. 記憶を「未来のため」に使う:記憶は、過去の出来事を思い出すためのものですが、その本当の価値は「未来をどう生きるか」に役立てることです。過去の失敗から「何を学べばいいか」、過去の成功から「自分のどんな力が役立つのか」を見つけ出しましょう。記憶を、あなたの未来を明るくするための「参考資料」として活用するのです。


まとめ

記憶は、私たちが世界を理解し、自分自身を知り、これからどう進むかを考えるための大切な「データ」です。でも、そのデータは、私たちが「こうだった!」と信じているほど完璧なものではなく、脳が再構成したり、気持ちに左右されたりする、とても柔軟なものです。

ですから、「過去は変えられない」とか、「あの時の記憶が全てだ」と、記憶を「絶対の信念」のように固く信じ込む必要はありません。記憶は、あなたを縛るものではなく、あなたが過去から学び、今の自分を見つめ、より良い未来を切り開くための道具なんです。

記憶を上手に使いこなして、もっと自由で豊かな人生を歩んでいきたいですね。


 
 
 

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