認められたいのは自分を認められないから:承認欲求と自己肯定感の心理学
- nirin-so

- 10月24日
- 読了時間: 4分
「どうしてこんなに、誰かに認めてもらいたいんだろう」
そう感じたことはありませんか?頑張った努力を褒めてほしい、自分の存在価値を誰かに肯定してほしい。この「認められたい」という強い願い、それこそが人間誰しもが持つ承認欲求です。しかし、この欲求があまりにも強くなり、まるで渇望のようになる時、心理学的な視点からは、それは「自分を認められない」という内面の声の裏返しであると解釈されます。
心理学の巨人たちが語る承認欲求
アメリカの著名な心理学者アブラハム・マズローは、人間の欲求を五つの階層に分けて捉える「欲求階層説(マズローの五段階欲求)」を提唱しました。その中で、承認欲求は「所属と愛の欲求」の次に位置する、非常に重要な心理的ニーズです。
マズローは承認欲求を二つのレベルに分けました。
低いレベルの尊重欲求(他者承認欲求): 地位、名声、注目、他者からの尊敬など、外的な評価を求める欲求。
高いレベルの尊重欲求(自己承認欲求): 自信、達成感、自己価値の感覚など、自分自身が自分を価値ある存在として認める欲求。
他者からの承認を強く求める「渇望」の状態は、まさにこの「低いレベルの尊重欲求」に過度に依存している状態と言えます。そして、マズローは、この低いレベルにとどまり続けることは危険であると警告しています。なぜなら、他者からの評価は不安定で変動しやすく、それに依存していると、いつまでも心の安定を得られないからです。
自己肯定感の「欠乏」が引き起こす渇望
なぜ、私たちは他者の評価にこれほどまでに依存してしまうのでしょうか。
その根源には、自己肯定感の低さが横たわっていると考えられます。
自己肯定感とは、「ありのままの自分」を受け入れ、「自分には価値がある」と思える感覚のこと。自己肯定感が高い人は、たとえ失敗したり、批判されたりしても、「自分という存在の価値」そのものが揺らぐことはありません。
しかし、自己肯定感が低い、つまり「自分で自分を価値ある存在だと認められていない」人は、その心の空白を埋めるために、必死で外部の「承認」を求めるようになります。
まるでバケツに開いた穴を、他者からの「褒め言葉」や「評価」という水で満たそうとする行為に似ています。一時的には満たされても、バケツに穴が空いている限り、水はすぐに漏れ出し、また満たそうとする渇望に駆られます。この「承認欲求ループ」に陥ると、自分の軸を見失い、常に他者の目や期待に応えるための行動を優先する「他人軸」の生き方になってしまいがちです。
渇望から抜け出し、「自分軸」を築くために
では、この承認の渇望から抜け出し、健全な心の状態を取り戻すにはどうすれば良いのでしょうか。
鍵となるのは、マズローの言う「高いレベルの尊重欲求(自己承認欲求)」を満たすことです。
1. 内なる評価基準を築く
まず、自分の価値を他者の評価ではなく、「自分自身」が設定した基準で測る訓練を始めましょう。
小さな成功を「自分で」認める: 誰に褒められなくても、「今日の仕事を最後までやり遂げた」「疲れているけど運動できた」など、自分の行動や努力を「自分で」認め、褒める習慣を持つ。
感情の「丸ごと受容」: 落ち込んでいる自分、情けない自分も含め、「今、自分はこう感じているんだな」と否定せずに受け入れること。これは、自己受容と呼ばれ、自己肯定感の土台となります。
2. 他者の承認を「燃料」に変える
承認欲求を完全に排除することは、人間の心理として不可能ですし、無理に抑圧する必要もありません。大切なのは、承認欲求を「目的」にするのではなく、「行動の燃料」として利用する視点を持つことです。
「褒められたいから頑張る」という依存的な動機ではなく、「自分の成長のために努力する。その結果として承認が得られれば、それはさらなるモチベーションになる」という建設的な捉え方に変えるのです。
3. 「無条件の肯定的関心」を自分に向ける
心理学者カール・ロジャーズは、人が健全に育つためには、他者からの「無条件の肯定的関心」が必要だと説きました。これは、「条件をつけずに、ありのままの存在として受け入れる」ということです。
幼少期にこれが満たされなかった場合、大人になった今、この無条件の肯定を「自分自身」に向けてあげることが必要です。たとえ何も成し遂げなくても、ただ存在しているだけで自分には価値がある、と心から信じること。これが、渇望を静める最も深い癒しとなります。
まとめ
誰かに認められたいと渇望するのは、決して悪いことではありません。それは、私たちが社会的な存在であり、繋がりを求めている証拠です。しかし、その渇望があまりにも強すぎるなら、立ち止まって内省するチャンスです。
「誰かに認めてもらおう」とするエネルギーを、少しだけ「自分で自分を認めよう」という方向に向け直してみてください。その一歩こそが、不安定な他者承認のループから抜け出し、揺るがない自分軸、つまり真の自己肯定感を築き上げる道となるでしょう。
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