頑張れないと落ち込むのは、頑張りたいと思っているから~心のひだを心理学で優しく読み解く
- nirin-so

- 9月15日
- 読了時間: 4分
私たちは、日々の生活の中で「もっと頑張らなきゃ」と思う瞬間が何度もあります。
仕事、勉強、人間関係、あるいは自分自身のこと。しかし、頑張ろうと思えば思うほど、なぜか体が動かない、気持ちがついてこないという経験はないでしょうか。そして、そんな自分を責めてしまい、深く落ち込んでしまう。
「頑張れないと落ち込むのは、頑張りたいと思っているから」
この言葉は、一見すると矛盾しているように聞こえるかもしれません。しかし、これこそが私たちの心の奥底で起きている、非常に大切な心理的メカニズムなのです。今回は、この心のひだを心理学のレンズを通して、優しく読み解いていきましょう。
「理想の自分」と「現実の自分」のギャップが引き起こす苦悩
心理学には、自己不一致理論という考え方があります。これは、私たちが心の中に3つの「自己」を持っているという理論です。
現実の自己: 今のありのままの自分
理想の自己: 理想とする、こうありたい自分
当為の自己: こうあるべきだと感じる、義務的な自分
「頑張りたい」と強く願う気持ちは、このうちの理想の自己や当為の自己と深く結びついています。たとえば、「もっと効率的に仕事ができる自分になりたい」「完璧なレポートを提出するべきだ」といった思いは、理想や義務的な自己が提示する目標です。
一方で、疲労やモチベーションの低下から「頑張れない」状態にある自分は、現実の自己です。
頑張れないことで落ち込むのは、この現実の自己と、理想の自己や当為の自己との間に大きなギャップが生じているからです。このギャップが大きければ大きいほど、私たちは罪悪感や無力感、そして深い悲しさを感じやすくなります。頑張りたいという気持ちが強い人ほど、このギャップを敏感に感じ取り、苦悩してしまうのです。
「頑張れない」というサインは、心が発するSOS
では、なぜ頑張ろうと思っているのに頑張れないのでしょうか?
その背景には、燃え尽き症候群(Burnout syndrome)や心理的エネルギーの枯渇が隠されていることがあります。私たちの心や体には、活動するためのエネルギーがあります。
しかし、過度なストレスやプレッシャー、あるいは休息不足によって、このエネルギーはどんどん消費されていきます。
「頑張りたい」という気持ちが先行し、エネルギーが枯渇しているにも関わらず無理をしようとすると、心はこれ以上の負荷に耐えきれなくなります。その結果、「頑張れない」という状態を引き起こすことで、私たちに「もう休んでほしい」「このままでは壊れてしまう」と必死に訴えかけているのです。
この「頑張れない」という感覚は、決して怠けているわけではありません。むしろ、これ以上無理をさせないように、心と体が自衛のために発している重要なSOSサインなのです。
自分を責める心から解放されるために
頑張れない自分を責めてしまうのは、先ほど述べた自己不一致をさらに深めてしまう行為です。では、どうすればこの苦しみから解放されるのでしょうか。
1. 「頑張れない自分」を客観的に受け止める
まず、認知行動療法の考え方を取り入れてみましょう。「私はダメだ」「なんて怠け者なんだ」というネガティブな自動思考を、「疲れているから、今は休む必要があるんだな」「頑張りたい気持ちがあるのに、体がついてこないのは、それだけ頑張ってきた証拠なんだ」といった、より現実的で建設的な思考に置き換えてみます。
自分を責めるのではなく、今の自分の状態を冷静に観察し、その原因を探ってみることが大切です。
2. 「理想の自分」のハードルを少しだけ下げる
理想が高すぎると、現実とのギャップは広がるばかりです。完璧主義の傾向がある人は、まず「100点」を目指すのではなく、「60点でもOK」と自分に許可を与えてみましょう。
たとえば、「毎日3時間勉強する」ではなく、「今日はまず10分だけ机に向かってみる」というように、ハードルをぐっと下げることで、行動への抵抗感を減らすことができます。小さな成功体験を積み重ねることが、自信回復の第一歩になります。
3. 「頑張らない時間」を意識的に設ける
頑張ることが美徳とされがちな現代社会ですが、私たちには「頑張らない時間」も絶対に必要です。何も考えずにぼーっとする時間、好きなことに没頭する時間、心からリラックスできる時間。
これは決して無駄な時間ではありません。心理的エネルギーを充電し、自分自身をケアするための必要不可欠な投資です。あらかじめスケジュールに「休息」や「遊び」の時間を組み込むことで、頑張りすぎを防ぐことができます。
頑張れないと落ち込むのは、それだけ「もっと成長したい」「より良い自分になりたい」と強く願っている証拠です。その気持ちは、あなたの心の中にある、尊く、温かい光なのです。
だからこそ、その尊い気持ちを「頑張れない」という形で苦しめるのではなく、「今は休むときだよ」と優しく抱きしめてあげてください。自分を労わることで、また前に進むための力が自然と湧いてくるはずです。あなたの心は、あなたが思っている以上に、あなたのことを大切に思っています。
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